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螺旋脱線.後

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季節の変わり目にふと表れる,どうしようもなく嘘くさい瞬間が堪らない. 梅雨明け間近の夏の入り口.もうそろそろ19時にもなろうというのに,未だ日は沈まない.沈まない夕日は,雲に隠れて今は見えない. 朝焼け夕焼けの赤さなどは最早見慣れたものだが,…

螺旋脱線.前

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小腹が空いたもののわざわざ料理をするのも面倒なのでカップ麺を食べることにした.最近いつもこの調子だ.コンロ奥の壁に掛けられた鉄製フライパンが泣いている.いつまでもこんな体たらくでは涙でフライパンが錆びてしまいそうなのでたまには一念発起して…

割り切れない奴

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1999年つまり平成11年の11月29日この世に生を受けたモトカズ君は,7歳の時は不適な笑みを浮かべた子供だった.12歳の時に周囲との融和を覚えたかと思えば,13になると早速孤立した.14の時には改めて7という数字の完全性に気づき大いなる成長を遂げた.所謂…

螺子子ちゃん その2

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計37つのネジの締め具合によって生身の人間が見せる様々な表情を完璧に再現することを可能とした新型の人形であるネジコちゃんは,ここ最近の僕の興味を惹きつけて止まない.説明書の支持通りに計37つのネジをひとつひとつ絶妙の締め具合で調節してやると,…

螺子子ちゃん.その1

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いつも両人差し指の爪を2ミリくらい伸ばしている. ネジを締めてあげるためだ. 隣の部屋に住んでいるネジコちゃんのこめかみには,左右にひとつずつ,ネジが付いている. ネジの頭には溝が彫ってあるものの,それが綺麗な直線の溝でなく,僅かに曲がってい…

鞄屋

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鞄を買いに駅前のデパートまで足をのばすと,不思議な鞄屋があることに気づいた. 入り口はジッパーで閉じられていて,間取りは縦に細長い. このお店は鞄で出来ているんですね 声を掛けつつ,店の奥を見ると 姿勢良く座っている店主の両肩に,帯状の何かが…

傾いた世界と傾いた人間.

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昼寝て,夕方起きると 右足が左足になっていた. 左足は,左足のまま. 両足とも土踏まずが左側に来てしまったので 左側には二倍踏ん張れるけど,右側には踏ん張れない. 不安定な足下を見つめながらよろよろと歩き 外に出てみると,世界が傾いていた. これ…