螺子子ちゃん.その1


いつも両人差し指の爪を2ミリくらい伸ばしている.
ネジを締めてあげるためだ.
隣の部屋に住んでいるネジコちゃんのこめかみには,左右にひとつずつ,ネジが付いている.
ネジの頭には溝が彫ってあるものの,それが綺麗な直線の溝でなく,僅かに曲がっている.
そのためマイナスドライバーではぴったりと合わず,湾曲した爪がフィットする訳だ.
当然爪なんかでは,ネジをきつく締めることは出来ない.しかし,それこそが丁度良い.
あまりきつく締めると,ネジコちゃんは苦痛に歪んだ表情で僕を睨んでくる.
爪が痛くならない程度に締めてあげるのが,適度な締まり具合であるらしい.
また,左右のバランスも重要だ.どちらかを強く締めすぎると,引き攣ったニヒルな笑顔を向けられることになる.
また,ネジコちゃんのネジは,締めることは出来ても,僕の手で緩めることは出来ない.
それなのに,時間が経てば自然と緩くなる.緩くなると,ネジコちゃんはひどく不機嫌な表情になり,自分の力で立つことも出来なくなる.
そのため,毎日ネジを締めてあげないといけない.
いつも絶妙の締め具合を狙ってネジを締めている.しかしほとんどの場合巻き過ぎてしまう.
その度に,左右どちらかが釣り上がった歪な笑顔を向けられるため,とても悲しくなる.
ひとときの,はかなくも完璧な彼女の笑顔を期待して,僕は今日もネジを締める.