丸くなった

近所にラーメン二郎という名のラーメン屋があって,好きで良く通っていたのだけど,その店が先月,店舗を移設した.とは言えすぐ近くへの移設だったので,まだ充分通える距離にある.
それで今週,遂に新店舗に行ってきた.店長らしき人は,当然ながら前と同じ.従業員が増えて,店舗も一回り大きくなって,駐車場駐輪場も完備されて,事業拡大と言った感じ.前から行列の絶えない店だったし,そこで規模を大きくするための移設だったのだろう.


ところでこのラーメン屋,性質は硬派である.客に媚びる意思が殆ど感じられない.注意書きに顔文字が使われているなどのお茶目要素は僅かにあるものの,店員さんは基本的に不愛想である.
中でも,最も硬派要素を露骨に反映しているのがメニューである.最もスタンダードなメニュー,小ラーメン,麺重量300g.決して少ない量ではない.少なくとも,一般のラーメン屋ならば大盛+αの量である.スープは至って濃厚.野菜も大盛,チャーシューは塊の豚肉をごろごろ.
300gという重量が硬派な訳ではない.もっと大きなサイズのラーメンを出す店はそれなりにあるだろう.あのボリュームとインパクトに対して平然と“小ラーメン”と名づけられる神経が硬派なのだ.そして二郎においては,小ラーメンが最小サイズであった.


そんな硬派なラーメン二郎が店舗移設と知った時,まず私の中に生じたものは「丸くなってしまうのではないか」という危惧であった.
人気に対して明らかに小さな店舗から,立地の良い大通り沿いへの移設.インディーズバンドのメジャーデビューに近い何かを,私は感じてしまった.
人気が出れば,より幅広い客層へと対応するのがビジネスの流れ.あの凶器じみたラーメンでメジャーに立ち向かって行くのか,それとも,かつての輝きは失われてしまうのか,それだけが不安であった.


その様な危機感を抱いて挑んだ新生二郎であったが,果たして小ラーメンのクオリティは以前と変わらぬものであった.価格も前と同じ.大ラーメンは30円ほど値上がりしていたが,そもそもが安過ぎたのだ.
しかし私は,小ラーメンの隣に見慣れぬ新メニューを発見する.
新メニューの名は“プチ二郎”.麺重量180g.
そう,遂に小ラーメン最小サイズ時代は幕を閉じたのだ.それと同時に,日本屈指の巨大サイズを誇る“プチラーメン”が誕生した訳でもあるが,そんな具合に妥協案を見出したらしい.
そういう訳で,新生二郎は尚硬派でありながら,僅かながら丸くなったのであった.